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SCENE#27   しかし、ナンセンスな話だ… But What a Nonsense Story…

SF  不思議 Science Fiction&Fantasy

第1章:ナンセンスの兆候と崩壊する秩序

 

会計士のアキラは、数字と論理を愛する男だった。彼の人生は、完璧に整理された会計帳簿のようだった。毎朝、6時半に目覚め、淹れたてのコーヒーを飲む。しかし、その完璧な日常は、ある朝、自宅の庭に鮮やかなピンク色のゾウが座っているのを発見したことで崩壊した。

 

 

アキラは驚き、隣人の老夫婦に駆け寄った。

 

「お隣さん、ちょっとお聞きしてもいいですか!庭にゾウが…ゾウがいる…どうしてここに?」

 

老夫婦はまるで庭に咲いた花のようになんの感情も示さず、静かに答えた。

 

「ああ、あれかい?雨が降ればカエルが降ってくるように、ゾウが庭に現れることもあるさ。気にすることないよ、アキラ君。今日もいい天気だね!」

 

アキラは困惑した。ゾウは明らかにそこにいるのに、誰もそれを異常だと感じていない。警察に通報したが、電話口のオペレーターは笑いながら言った。

 

「ゾウの通報ですか?ええ、承知いたしました。ただ、今日はキリンの脱走事件で手が回らなくて…もし、ゾウが空を飛び始めたら、また連絡ください…」

 

その日を境に、アキラの周囲で奇妙な出来事が頻発し始めた。彼のコーヒーカップは突然歌い出し、空には虹色の雨が降り、誰もがなぜか逆さまに歩いている。アキラは、これらすべての現象を「幻覚」だと自分に言い聞かせようとした。

 

しかし、彼の心の中には説明できない違和感が膨らんでいく。彼は夜通しインターネットで「庭にゾウ」「歌うカップ」「虹色の雨」と検索し続けたが、結果は得られなかった。

 

 

 

第2章:滑稽な探求、そして見出されたナンセンスのルール

 

アキラは、この「ナンセンス」な現象の根本原因を、論理的に解明することを決意した。彼は小さなノートを手にし、すべての奇妙な出来事を詳細に記録し始めた。最初は無秩序に思えた現象も、注意深く観察するうちに、ある奇妙なパターンがあることに気づいたのだ。

 

水曜日の朝9時ちょうどに、空から必ず赤い靴が降ってくる。

午後3時には、街のどこかで誰かが決まった意味不明な歌を歌い出す。

金曜日の夕方6時には、すべての時計が正確に1時間遅れる。

 

 

アキラは興奮した。これは、無意味な現象にも関わらず、決まったルールが存在しているということだ。彼は、このルールを解明すれば、ナンセンスを制御できると考えた。彼はこの奇妙な現象について唯一まともな会話ができそうな、古本屋の店主と出会う。

 

「店主さん、この町で起きている奇妙な現象について、何かご存知ではありませんか?私は、この奇妙なルールを解き明かしたいのですが…」

 

店主は眼鏡の奥でアキラをじっと見つめ、静かに語り始めた。

 

 

「ああ、知っているよ。この町は昔から少しばかり奇妙でね。しかし、最近は特にひどくなった。まるで、昔この町を秩序で満たしていた『論理の守護者』が、その力を失ってしまったかのようだね。彼らが守っていた論理のかけらが、今やバラバラになって、こうして奇妙なルールとなって現れているのかもしれないね…」

 

アキラは店の奥に埃をかぶって置かれていた地図を見つけた。そこには、この町の中にあるであろう、「論理のかけら」が隠されているであろう場所が記されていた。アキラは、この守護者が失った論理のかけらを探し、このルールの謎を解こうと決意したのだ。

 

 

 

第3章:論理の崩壊と個性的な人々との出会い

 

アキラの探求は、ますます困難になっていった。彼の論理的な思考は、このナンセンスな世界ではまったく通用しなかったのだ。地図に示された道は突然消えたり、彼のメモは意味不明な落書きに変わったりする。そんな中、アキラは個性的なキャラクターたちと出会う。

 

まず、彼は常に逆さまに歩いている「逆さまに歩く男」と遭遇した。男は頭を地面につけ、アキラの足元を通り過ぎる。

 

「あの、すいません。なぜ、あなたは逆さまに歩いているのですか?」

 

男は頭を上げた。彼の顔は赤く、目はすごく充血していた。

 

「なぜだって?じゃあ、なぜお前はまっすぐ歩いているんだ?頭が空に向かっているなんて不自然だろう。逆さまに歩くことこそ、この世界の理に適っているんだよ…」

 

 

男はそう言うと、また逆さまに歩き去って行った。アキラは言葉を失った。

 

次に、彼は空から降ってくる魚を捕まえて、その歌の内容を占う「歌う魚の行商人」に出会った。

 

「その魚は、歌っているんですか?」

 

「ああ、そうだよ。この魚は、明日降る雨の色を歌っているんだ。今日は青い歌を歌っているから、明日の雨は青いだろう。君にも聞こえるだろう?」

 

 

アキラは耳を澄ましたが、魚からは何も聞こえなかった。しかし、行商人の顔は真剣だった。行商人は続けた。

 

「この世界には、意味のないことは何一つないんだよ。ただ、君にはまだその意味が見えていないだけさ!」

 

アキラは彼らとの交流を通じて、自分の「論理」が、この世界の真実の前では無力であることを少しずつ理解し始めた。そしてついに、彼は地図の最後の場所で、「論理の守護者」の最後の記録を見つけた。そこにはたった一文、「しかし、ナンセンスな話だ…」と記されていた。

 

 

 

第4章:ナンセンスの受け入れと心の解放

 

記録の真実を知ったアキラは、膝から崩れ落ちた。彼の人生のすべてを支えてきた「論理」が、この世界の真実の前では無力だったのだ。彼は絶望と虚無感に襲われ、呆然と立ち尽くした。

 

「一体、何のために…!何のために、僕は…」

 

しかし、その絶望の底で、アキラはふと空を見上げた。そこでは、ピンクのゾウが楽しそうに空を飛んでいた。彼は、ゾウが飛ぶ姿を美しいと感じている自分に気づいたのだ。

 

アキラは、もうナンセンスな出来事を記録しようとしなかった。代わりに、彼は歌うコーヒーカップに耳を傾け、逆さまに歩く人々に手を振る。彼は、この世界が「ナンセンス」であること自体が、この世界の唯一の「論理」であり、人々はそのルールに合わせて生きているのだと悟った。

 

「あぁ、なぜ、こんなにも安らぐのだろうか…。抵抗をやめた途端に、世界がこんなにも美しいだなんて。論理なんて、この世界には必要なかったんだ。これが、この世界の真実だったんだな…ラララ♫」

 

 

 

第5章:そして、ナンセンスな日常へ

 

アキラはもはや、几帳面な会計士ではなかった。彼は、歌う魚の行商人から仕入れた魚を逆さまに歩く男に渡し、お互いの奇妙な行動を笑い合った。彼は、このナンセンスな世界で、ナンセンスなもの同士を繋ぎ合わせる「ナンセンスコーディネーター」として生きてみようとを決めた。

 

ある日、アキラは庭でくつろいでいた。空からは赤い靴が降り、隣人の庭には新しいピンクのゾウが増えていた。アキラは、飛んできたゾウにリンゴを差し出しながら、穏やかな表情で呟いた。

 

「しかし、ナンセンスな話だ…」

 

彼の言葉は、もはや困惑や皮肉ではなく、この世界を愛する者としての、穏やかな諦念とユーモアに満ちていた。そして、アキラは初めて、心から笑うことができた。彼は、このナンセンスな世界が、何よりも論理的で美しい場所だと感じていた…

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