葛飾北斎の娘『応為』父を超えた？光と影を描いた江戸の天才「女絵師」の生涯│mataiku（マタイク）

葛飾北斎の娘である葛飾応為（かつしかおうい）は、父の陰に隠れがちでありながら、その才能は「父を超えた」とも評される江戸時代後期の天才女絵師です。本名はお栄（おえい）。当時の男社会において、独自の画風と豪胆な生き様を貫いた彼女の生涯は、現代においても人々の関心を集めています。

破天荒な天才の弟子にして娘

お栄は、浮世絵師・葛飾北斎の三女として生まれました。一度武士の元に嫁ぎますが、絵以外の雑事に関心が持てず、わずか1年ほどで夫と喧嘩し離縁。バツイチの出戻りとして、絵筆一筋の偏屈な父・北斎のもとに戻り、弟子として、また晩年の北斎の助手として生涯を共にしました。茶もまともに淹れられず、針仕事も苦手、煙草を好むなど、当時の女性としては型破りな豪快な性格の持ち主でした。
彼女が**「応為」**という画名を得たのは、師匠である北斎が何かと「おーい、飯！」「おーい、筆！」と、常に用事を言いつけていたことに由来すると言われています。この名前は、父と娘、そして師と弟子という複雑で濃密な関係性を象徴しています。

「光と影」の魔術師：江戸のレンブラント

応為の最大の芸術的功績は、当時の日本の絵画では珍しかった**「光と影」（陰影）の表現を追求し、独自の画風を確立した点にあります。彼女は西洋画の技法を取り入れ、深い奥行きと立体感を生み出し、特に夜景や室内の光の描写に卓越した才能を発揮しました。この卓越した表現力から、彼女は「江戸のレンブラント」**とも称されました。
北斎自身も、応為の才能を認め、「美人画においては私（北斎）は敵わない」と語ったと伝えられています。彼女の代表作である**『吉原格子先之図』**は、夜の吉原の情景を、ろうそくの光と格子の影で見事に描き出し、彼女の光と影の技術が結実した傑作として知られています。

時代を超えて語り継がれる生涯

男性が中心であった江戸時代の絵師の世界において、自分の心に正直に、情熱の赴くままに絵師として生きた応為は、まさに先駆的な女性アーティストです。生涯を通じて父の破天荒な創作活動を支えながら、自らの芸術も高め続けた彼女の生き様は、小説家・朝井まかて氏の直木賞候補作『眩』（くらら）や、近年公開される長澤まさみさん主演の映画『おーい、応為』の題材にもなり、今再び注目を集めています。
現存する作品は極めて少ないため、その生涯の多くは謎に包まれていますが、応為が残した強烈な個性と作品は、葛飾北斎という巨大な才能のそばで、自らの炎を燃やし続けた一人の天才女性の物語として、後世に伝えられています。