第1章:またチャップリンかよ!
「カンタ〜、今日もチャップリン観ようか」
学校から帰ると、またおじいちゃんのこのセリフ。
「え〜、また〜?ゲームやってるとこだったのに!」
おじいちゃんが好きなのは、昔の白黒映画の男の人。ちょびヒゲで、変なステッキ持って、やたらこける人。名前は……チャップリン。
「チャップリンなんか、大っキライ!」
テレビを奪われたぼくは、わざと大きなため息をついた。
第2章:しゃべらないなんてズルい!
ある日、おじいちゃんが見せてきたのは『黄金狂時代』って映画。
「言葉がなくても笑えるんだぞ。よく観とけよ〜」
「しゃべらないなんてズルいよ。意味わかんないし」
だけど、画面の中でチャップリンが自分の靴をフォークで食べようとしたとき――
ぷっ。
……あれ?ぼく、笑った?
「おっ、笑ったな?」
「笑ってないし!くつなんか食べるのおかしいだけだし!」
なんだかくやしくて、ぼくはそっぽを向いた。
第3章:本当はちょっとだけ…
雨の日。ゲームも外出もダメ。
「『モダン・タイムス』、今日やるぞ」
またチャップリン? でも、やることないし……ちょっとだけなら。
工場でベルトコンベアに巻き込まれるチャップリン。レンチを持って、ネジを締めまくるチャップリン。何も言わないのに、すごくドタバタで、すっごく笑える。
「……ねぇ、これって、続きあるの?」
「あるとも」
気づいたら、ソファに深く座りなおしてた。
第4章:なんかちょっと、ズルいじゃん
おじいちゃんがDVDの棚から『キッド』を取り出した。
「これは、泣けるやつだ」
「え〜、チャップリンって笑うやつじゃないの?」
でも始まると――
孤児の子どもと一緒に暮らすチャップリン。二人の距離がどんどん近づいて、最後には引き離されそうになって……。
ぼく、なんか、目の奥があつい。
「泣いてるのか?」
「泣いてないもんっ!チャップリンのくせに、ズルいよ!」
第5章:チャップリンなんか、大っキライ!でも…
次の土曜日。
「今日はチャップリン、ないのか?」
おじいちゃんが風邪で寝込んじゃった。
DVDプレイヤーの前に、ぽつんと立つぼく。
ちょっと迷って、リモコンを手に取った。
『独裁者』っていうのを選んでみる。
チャップリンが、すごく真剣な顔で、何かを訴えてる。
言葉も出てきた。優しい目で、世界のことを話してる。
……ぼく、気づいちゃった。
チャップリンって、笑わせるために、いっしょうけんめいなんだ。
だから、次の日、おじいちゃんに言ってやった。
「ねえ、ぼくさ、チャップリン……」
「ん?」
「チャップリンなんか、大っキライ!」
そしてにっこり笑ったら、おじいちゃんもにやにや笑った。
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